精神的自由権には、4種類あるわ。
今回は、「表現の自由」を学習するモン。
本ブログでは、行政書士の試験科目「人権・精神的自由権(表現の自由)」について要約しています。
行政書士を目指している方に向けて、下記の書籍を参考にして作成しました。
ほんのわずかでも、行政書士試験を受験される方の手助けになれたら幸いです。
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表現の自由の保障根拠
表現の自由の保障根拠
表現の自由とは、自分の思想や意見を外部に表明して他者に伝達する自由のことです。
個人の内心における思想や意見は、外部に表明して他者に伝達することによって社会的に意見をなすものなので、表現の自由は、とくに重要な権利といえます。
表現の自由を支えるのは、「自己実現の価値」「自己統一の価値」です。
表現の自由の価値
自己実現の価値 | 個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値 |
自己統治の価値 | 言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという社会的な価値 |
表現の自由の内容
知る権利
表現の自由は、自分の思想や意見を外部に表明して、他者に伝達する自由(情報の送り手の自由)のことでした。
しかし現代社会では、マスメディアから情報が一方的・大量に流されて、ほとんどの人は情報の受け手となっています。
そこで表現の自由には、「~したい」といった情報の受け手の自由も含まれると考えられています(知る権利)。
アクセス権
アクセス権(反論権)とは、一般の国民がマスメディアに対して、自己の意見の発表の場を提供することを要求する権利のことです。
例えば、意見広告や反論記事の掲載を求めることなどです。
<事案>
自民党がサンケイ新聞に掲載した意見広告が共産党の名誉を棄損したとして、共産党が同じスペースの反論文を無料かつ無修正で掲載することを要求した。
<結論>
反論文掲載請求権は認められない。
<判旨>
日刊全国紙による情報の提供が一般国民に対し強い影響力を持ち、その記事が特定の者の名誉ないしプライバシーに重大な影響を及ぼすことがあるとしても、反論権の制度について具体的な成文法がないのに、反論権を認めるに等しい反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない。
報道・取材の自由
報道は、事実を知らせるものであり、特定の思想や意見を表明するものではありません。
報道の自由や報道のための取材の自由が、憲法21条によって保障されるかが問題となります。
<事案>
米原子力空母寄港反対闘争に参加した学生と機動隊員とが博多駅付近で衝突し、機動隊側に過剰警備があったとして付審判請求がなされたため、裁判所がテレビ放送会社に衝突の様子を撮影したフィルムを証拠として提出することを命じた。そこで、放送会社は、フィルムの提出命令が報道・取材の自由を侵害するとして争った。
<結論>
合憲
<判旨>
- 報道の自由
報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の知る権利に奉仕するものであるから、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にある。 - 取材の自由
報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない。 - 取材の自由の限界
取材の自由といっても、何らの制約を受けないものではなく、例えば公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときは、ある程度の制約を受けることのあることも否定することはできない。
取材に対して情報を提供した人は、自分が情報を提供したことを秘密にしてほしいと思うのが通常ですから、情報提供者の秘匿が守られなければ、以後の取材に支障が生じてしまいます。
そこで取材源秘匿の自由も含まれると考えられています。
他方、裁判における証人は、聞かれたことについて答える義務(証言義務)があります。
そこで、裁判における証人が取材源について聞かれた場合に、証言を拒絶できるかが問題となります。
最高裁判所の判例は、取材源秘匿の自由について、「刑事裁判」と「民事裁判」で異なる結論を述べています。
取材源秘匿の自由
刑事裁判 | 憲法21条は新聞記者に特殊の保障を与えたものではないため、医師その他に刑事訴訟法が保障する証言拒絶の権利は、新聞記者に対しては認められない(石井記者事件) |
民事裁判 | 民事事件において証人となった報道関係者は、当該報道が公共の利益に関するものであって、その取材の手段・方法が一般の刑事法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、しかも、当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、民事訴訟法197条1項3号に基づき、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶できる。 |
取材の自由と国家機密の関係については、以下のような判例があります。
<事案>
外務省の極秘電文を新聞記者が外務省の女性事務官から入手して横流ししたため、この新聞記者が秘密漏示をそそのかし罪に問われた。
<結論>
秘密漏示をそそのかし罪が成立する。
<判旨>
報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといって、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的から出たものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当のものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである。しかしながら、取材の手段・方法が贈賄・強迫・強要当の一般の刑罰法令に触れないものであっても、法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様のものである場合には、正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる。
また、法廷での取材の自由については、以下のような判例があります。
<事案>
アメリカ人弁護士のレペタは、裁判を傍聴した際に、傍聴席でのメモ採取を希望し許可申請を行ったが認められなかったため、この措置は憲法21条及び82条1項に違反するのではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
- 情報を摂取する自由
憲法21条1項は表現の自由を保障しており、各人が自由に様々な意見・知識・情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、個人の人格発展にも民主主義社会にとっても必要不可欠であるから、情報を摂取する自由は、憲法21条1項の趣旨・目的から、いわばその派生原理として当然に導かれる。 - 一般人の筆記行為の自由
様々な意見・知識・情報に接し、これを摂取することを補助するものとしてなされる限り、筆記行為の自由は、21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである。 - 法廷でメモを取る自由
傍聴人が法廷においてメモを取ることは、その見聞する裁判を認識・記憶するためになされるものである限り、尊重に値し、故なく妨げられてはならない。 - 筆記行為の自由の合憲性判定基準
筆記行為の自由は、21条1項の規定によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その自由の制限又は禁止には、表現の自由に制限を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものではない。 - 法廷でメモを取る行為の合憲性判定基準
傍聴人のメモを取る行為が厚生かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであって、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法21条1項の規定の精神に合致する。 - 司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対するメモの許可
報道の公共性、ひいては報道の為の取材の自由に対する配慮に基き、司法記者クラブ所属の報道機関の記者に対してのみ法廷においてメモを取ることを許可することも、合理性を欠く措置ということはできない。 - 裁判の公開との関係
憲法82条1項は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。
同条項は、各人が裁判所に対して傍聴することを権利として認めたものではないし、また、傍聴人に対してメモを取ることを権利として保障しているものでもない。
性表現と名誉棄損的表現
従来、性表現や名誉棄損的表現は、わいせつ文書頒布罪(ぶんしょはんぷざい)・名誉棄損罪などが刑法にさだめられているから、憲法で保障されないものとされてきました。
しかし、これでは何をもってわいせつ・名誉棄損とするかで、本来保障されるべき表現まで保障されなくなってしまうおそれがあります。
そこで、判例は、性表現や名誉棄損的表現も表現の自由に含まれるとしながら、その範囲を絞っていくという手段を採っています。
なお、個人の名誉の保護と正当な表現の保障との調和を図るため、以下の3要件を満たした場合には、名誉棄損罪が成立しないとされています。
- 摘示(てきし)された事実が公共の利害に関するものであること(事実の公共性)
- 摘示の目的が専ら公益を図るものであること(目的の公益性)
- 事実の真実性を証明できたこと(真実性の証明)
集会の自由
集会とは、多数人が共通の目的をもって一定の場所に集まることです。
また、「集会の自由」のみならず「集団行動の自由」も21条1項によって保障されます。
集会や集団行動は、多数人が集合して、特定の場所を独占して使用したり行動を伴ったりする表現活動ですから、他者の権利と矛盾・衝突する可能性が高いものといえます。
そこで、他者の権利との調整のため、「集会の自由」や「集団行動の自由」も、公共の福祉による制約を受けることがあります。
<事案>
メーデー記念集会のため皇居前広場の使用を申請したところ、これを拒否されたため、この拒否処分の合憲性が争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
公共用財産である皇居外苑の利用の不許可処分は、表現の自由又は団体行動権自体を制限することを目的としたものではないことは明らかであるから、公園管理権の運用を誤ったものとは認められず、憲法21条・28条に違反するものではない。
「皇居前広場事件」の不許可処分は、皇居前広場の使用を制限するものであり、表現物を対象とするものではないから検閲には当たらないという理由です。
<事案>
市長が市民会館の使用許可の申請を、市民会館条例の規定に基づき不許可処分としたため、この処分が集会の目的を侵害して違憲ではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
- 二重の基準の法理
集会の自由の制約は、基本的人権のうち精神的自由を制約するものであるから、経済的自由の制約における以上に厳格な基準のもとにされなければならない。 - 明白かつ現在の危険の法理
市民会館の使用を許可してはならない事由として、市民会館条例が定める「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは、市民会館における集会の自由を保障することの重要性よりも、市民会館で集会が開かれることによって、人の生命・身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し、防止することの必要性が優越する場合をいうものと限定して解すべきであり、その危険性の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である。
<事案>
東京都公安委員会の許可を受けずに集団行進を指導した者が、東京都公安条例違反で起訴されたために、この公安条例の合憲性が争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
地方公共団体が、純粋な意味における表現といえる出版等についての事前規制である検閲が21条2項によって禁止されているにも関わらず、いわゆる「公安条例」をもって、地方的情況その他諸般の事情を十分考慮に入れ、不測の事態に備え、法と秩序を維持するために必要かつ最小限度の措置を事前に講ずることは、やむを得ない。
表現の自由の規制
表現の自由も公共の福祉などを理由に制限されることがありますが、表現の自由は「自己実現の価値」「自己統治の価値」をもつ重要な権利ですから、国家権力の思うままに制限することは許されません。
そこで、表現の自由を規制する立法が、合憲か違憲かを判定する基準が必要となります。
上記の基準を「二重の基準」といい、精神的自由権に対する規制は、経済的自由権に対する規制よりも厳格な基準で審査すべきとされています。
ただし、表現の自由の規制の合憲性判定基準は、二重の基準から直ちに導かれるものではなく、「事前抑制」「漠然不明確な規制」「表現内容規制」「表現内容中立規制」といった規制の態様に応じて決定されます。
事前規制
事前規制とは、表現行為がなされる前に国家権力が表現を抑制することです。
事前規制は、表現の自由を大きく脅かすことになるので、原則として、許されないとされています。
また、事前抑制のうち、行政権が主体となって行う検閲は、絶対に禁止されています。
<事案>
税関当局が書籍等の輸入に当たって、その内容を検査する税関検査の制度が、検閲に当たり違憲ではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
- 検閲の意義
憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指す。 - 検閲禁止規定の趣旨
憲法21条2項の検閲禁止規定を憲法が21条1項とは別に設けたのは、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨を明らかにしたもので、検閲の絶対禁止を宣言したものである。 - 税関検査が検閲に該当するか
税関検査の場合、表現物は国外で発表済みであり、輸入が禁止されても発表の機会が全面的に奪われるわけではない。また、税関検査は関税徴収手続きの一環として行われるもので、思想内容等の網羅的審査・規制を目的としない。さらに、輸入禁止処分には司法検査の機会が与えられている。したがって、税関検査は検閲に当たらない。
<事案>
北海道知事選に立候補予定の者を批判・攻撃する記事を掲載した雑誌が、発表前に名誉棄損を理由に差し止められた。そこで、裁判所の仮処分による事前差し止めが21条に違反しないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
- 裁判所による事前差し止めの検閲該当性
裁判所の仮処分による事前差し止めは検閲に当たらない。 - 裁判所による事前差し止めの許容性
差し止めの対象が、公務員又は公職選挙の候補者に対する評価・批判等の表現行為に関するものである場合には、そのこと自体から、一般にそれが公共の利害に関する事項であるということができ、その表現が私人の名誉権に優先する社会的価値を含み憲法上とくに保護されるべきであることにかんがみると、当該表現行為に対する事前差し止めは、原則として許されない。もっとも、その表現内容が真実ではなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときは、例外的に事前差し止めが許される。
<事案>
小・中・高等学校の教科書は、文部大臣の検定に合格しなければ、教科書として使用できないとする教科書検定の制度が、事前抑制や検閲に当たり違憲ではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
教科書検定は、一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がないから、事前抑制にも検閲にも当たらない。
漠然不明確な規制・過度に広汎な規制
漠然不明確な規制・過度に広汎な規制がなされると、どこまで表現が許されるかわからず、表現をする人が萎縮してしまいます。
そこで、表現の自由を規制する立法は明確でなければならないとされていて、明確性の理論といいます
<事案>
徳島市公安条例の定める「交通秩序を維持すること」という許可条件は、不明確であり31条に違反しないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうかによってこれを決定すべきである。
表現内容規制
表現内容規制とは、表現の内容自体を規制するものです。
表現内容規制については、厳格な合憲性判定基準によることが要求されます。
表現内容中立規制
表現内容中立規制は、表現の内容にかかわることなく表現の時・場所・方法等を規制するものです。
表現内容中立規制は、表現内容規制よりも緩やかな合憲性判定基準が用いられるのが一般的です。
<事案>
防衛庁の職員及びその家族が住む集合住宅に無断で立ち入り、「自衛隊のイラク派兵反対」などと書かれたビラを配布した者が、住居侵入罪で起訴された。そこで、ビラ配布行為について住居侵入罪で起訴することは、憲法21条1項に違反するのではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
本件では、表現その者を処罰することの憲法適合性が問われているのではなく、表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ、本件で被告人らが立ち入った場所は、防衛庁の職員及びその家族が私的生活を営む場所である集合住宅の共用部分及びその敷地であり、自衛隊・防衛庁当局がそのような場所として管理していたもので、一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても、このような場所に管理権者の意思に反して立ち入ることは、管理権者の管理権を侵害するのみあらず、そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものと言わざるを得ない。
それではまた次回。
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