今回は、取消訴訟を学習するわ!
重点的に学習するモン!
本ブログでは、行政書士の試験科目「行政事件訴訟法・取消訴訟」について要約しています。
行政書士を目指している方に向けて、下記の書籍を参考にして作成しました。
ほんのわずかでも、行政書士試験を受験される方の手助けになれたら幸いです。
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取消訴訟の種類
取消訴訟の種類
取消訴訟には、処分取消訴訟と裁決取消訴訟の2種類があります。
取消訴訟
処分取消訴訟 | 行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行動の取消しを求める訴訟 |
裁決取消訴訟 | 審査請求その他の不服申立に対する行政庁の議決・決定その他の行為の取消しを求める訴訟 |
処分取消訴訟と裁決取消訴訟の関係
原処分主義
処分に不服がある者が審査請求をしたものの、これを認めない裁決がなされた場合、もともとの原処分の違法を主張して処分取消訴訟で争うことも、審査請求を認めない裁決の違法を主張して裁決取消訴訟で争うこともできます。
もっとも、原処分の違法を主張して裁決取消訴訟で争うことはできません。
このような主張を認めると、裁判所が原処分と裁決のどちらについて審理・判断すればよいか混乱してしまうからです。
そこで、原処分の違法を主張して争いたいのであれば、原処分の取消訴訟を提起しなければならないということになります(原処分主義)。
裁決主義
行政事件訴訟法以外の個別の法律により、処分に不服がある者が審査請求したものの、これを認めない裁決がなされた場合には、裁決取消訴訟のみ提起することができるとされている場合があります。
このような場合には、原処分の違法についても裁決取消訴訟で争えます(裁決主義)。
取消訴訟の訴訟要件
取消訴訟が提起された場合、まず、訴訟要件を満たしているかを調査します。
これはm違法な訴訟を排除することにより、時間の労力の無駄を省くためです。
取消訴訟の訴訟要件は、以下の7つです。
このうち1つでもかけている場合は、取消訴訟を提起することができません。
取消訴訟の訴訟要件
- 行政庁の処分または裁決が存在すること(処分性)
- 訴訟を提起する資格を有していること(原告適格)
- 訴訟を提起する実益があること(訴えの利益)
- 相手方を間違えずに訴訟を提起していること(被告適格)
- 管轄する裁判所に対して訴訟を提起していること(裁判管轄)
- 法定の期間内に訴訟を提起していること(出訴期間)
- 法律によって審査請求に対する裁決を経た後でなければ訴訟を提起することができないとされている場合に、これを経ること(審査請求前置)
処分性
取消訴訟の対象となる処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものです。
処分性が認められるためには、「公権力の主体たる」国または公共団体が行う行為であることが要求されますから、私法上の行為については、処分性が否定されるのが通常です。
また、処分性が認められるためには、「直接権利義務を形成しまたはその範囲を確定すること」が要求されるので、
- 行政機関の内部的行為
- 一連の段階を経て行政作用が進行する場合の中間的行為
- 単なる法律的見解の表示行為などの事実行為
- 行政立法や条例の制定などの規範定立行為
については、処分性が否定されるのが通常です。
しかし、私法上の行為や、内部的行為・中間的行為・事実行為・規範定立行為であっても、処分性を認めた判例があります。
最重要判例<<土地区画整理事業の事業計画決定の処分性
最重要判例<<特定の保育所を廃止する条例の制定の処分性
処分性に関する判例
認められる | 認められない | |
私法上の行為 | ・供託金取戻請求に対する供託官の却下 ・労働基準監督署長による労災就学支援費の支給決定 | ・国有財産法上の普通財産の 普通財産の払下げ ・農地法に基づく農地の売払い |
内部的行為 | ・建設許可に対する消防庁の同意 ・通達 | |
中間的行為 | ・第二種市街地再開発事業計画の決定 ・土地区画整理事業の授業計画の決定 | ・都市計画決定としてなされる 用途地域の指定 |
事実行為 | ・輸入禁制品該当の通知 ・病院開設中止勧告 | ・反則金の納付通知 ・開発許可に係る 公共施設管理者の同意 |
規範定立行為 | ・2項道路指定が国事による一括指定の方法でされた場合 ・特定の保育所を廃止する条例の制定 | ・簡易水道事業の水道料金 を改定する条例の制定 |
原告適格
原告適格とは何か
原告適格とは、個別の事件において訴訟を提起する資格です。
取消訴訟の原告適格は、処分・裁決の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に限り認められます。
「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者をいいます。
原告適格を判断する際の考慮事項
9条2項により、処分の相手方以外の者について「法律上の利益」を有するか否かを判断する際の考慮事項が明示されています。
これは、「法律上の利益」の有無を判断する際の考慮事項を決定することで、取消訴訟の原告適格を拡大しようとしたものです。
9条2項
根拠法令の趣旨・目的を考慮するにあたっては、法令と目的を共通にする関係法令があるときは、その趣旨・目的をも参酌する
利益の内容・性質を考慮するにあたっては、処分・裁決が根拠法令に違反してなされた場合に害される利益の内容・性質、これが害される態様・程度をも勘案する
判例の判断
判例は、原告適格を以下のように判断しています。
最重要判例<<小田急高架訴訟
最重要判例<<場外車券発売施設設置許可と原告適格
原告適格
対象 | 原告 | 適格 | |
営業上の利益 | 質屋の営業許可 | 既存の質屋営業者 | × |
公衆浴場の営業許可 | 既存の公衆浴場業者 | 〇 | |
文化的利益 | 史跡指定解除 | 学術研究社 | × |
消費者の利益 | ジュースの表示規約 | 一般消費者 | × |
特急料金認可 | 特急電車の利用者 | × | |
生命身体の安全・健康上の利益 | 林地開発許可 | 被害を受ける周辺の居住者 | 〇 |
総合設計許可 | 被害を受ける周辺の居住者 | 〇 | |
総合設計許可 | 日照を阻害される周辺の居住者 | 〇 | |
定期航空運送事業免許 | 周辺の居住者 | 〇 | |
都市計画事業認可 | 周辺の居住者 | 〇 | |
善良な風俗等の居住環境上の利益 | 風俗営業許可 | 風俗営業制限地域に居住する者 | × |
場外車券発売施設設置許可 | 区域内の医療施設開設者 | 〇 | |
場外車券発売施設設置許可 | 施設の周辺住民 | × |
訴えの利益
訴えの利益とは、訴訟を提起する実益のことです。
つまり、原告の請求が認容された場合に、原告の具体的な権利が回復可能でなければならないといえます。
訴えの利益は、期間の経過、処分の効果の完了、原告の死亡、代替的措置、新たな事情の発生などにより処分の効果が失われた場合には、消滅するのが原則です。
もっとも、9条1項かっこ書は、処分の効果が失われた後でも、処分の取消しにより回復すべき法律上の利益を有する者について、訴えの利益を認めています。最重要判例<<運転免許更新処分と訴えの利益
訴えの利益に関する判例
対象 | 処分後の事情 | 訴えの利益の有無 | |
期間の経過 | 皇室外苑使用不許可処分 | 使用期日の経過 | × |
運転免許証取消処分 | 免許証の有効期間の経過 | 〇 | |
運転免許停止処分 | 無違反・無処分で停止処分の日 から1年経過 | × | |
処分の効果の完了 | 建築確認 | 建築工事の完了 | × |
土地改良事業施行認可処分 | 公示が完了して原状回復が不可能 | 〇 | |
市街化区域内の開発許可 | 公示が完了して検査済証交付 | × | |
市街化調整区域内の開発許可 | 公示が完了して検査済証交付 | 〇 | |
原告の死亡 | 生活保護変更決定 | 保護受給者原告の死亡 | × |
公務員免職処分 | 原告公務員の死亡 | 〇 | |
代替的措置 | 保安林指定解除処分 | 代替施設の設置 | × |
新たな事情の発生 | 再入国不許可処分 | 原告の在留外国人が出国 | × |
公文書非公開決定 | 公文書が書証として提出 | 〇 | |
9条1項の適用 | 公務員免職処分 | 原告公務員が公職へ立候補 | 〇 |
運転免許証更新処分 | 優良運転者である旨の 記載のない免許証交付 | 〇 |
被告適格
取消訴訟の被告とすべきものは、以下の通りです。
処分・裁決をした行政庁が国または公共団体に | 所属する | 被告は国または公共団体 |
所属しない | 被告は当該行政庁 |
裁判管轄
取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所または処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属します。
土地の収用など | その不動産または場所の所在地の裁判所 |
すべての取消訴訟 | 処分・裁決に関し事業の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所 |
国または独立行政法人等 | 原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所 |
出訴期間
行政上の法律関係は早期に安定させておく必要があるため、取消訴訟については出訴期間が決定されています。
出訴期間を経過すると、不可争力が生じ、取消訴訟を提起できなくなります。
出訴期間
主観的出訴期間 | 客観的出訴期間 | |
原則 | 処分・裁決があったことを知った日から6か月以内 | 処分・裁決の日から1年以内 |
例外 | ・正当な理由があるとき 出訴期間を経過しても取消訴訟を提起できる ・処分、裁決につき審査請求できる場合または行政庁が誤って 審査請求できる旨を教示した場合において審査請求されたとき →これに対する決済があったことを知った日または裁決の日が起算となる |
取消訴訟と審査請求の関係(審査請求前置)
原則(自由選択主義)
行政処分に対し行政不服審査法その他の法令により行政庁に対し審査請求ができる場合、審査請求・取消訴訟のどちらでも提起できます。
例外
法律によって審査請求に対する決済を経た後でなければ取消訴訟を提起できないとされている場合は、審査請求を経なければなりません。
ただし、以下の場合には、直ちに取消訴訟を提起できます。
- 審査請求をした日から3か月を経過しても裁決がない場合
- 処分・処分の執行・手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要がある場合
- 裁決を経ないことに付き正当な理由がある場合
取消訴訟の審理
審理の対象
取消訴訟においては、処分の違法性のみが審理の対象となります。
また、処分の違法性全般が審理の対象となるわけではなく、取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることはできません。
上記に違反した場合、棄却判決がなされます。
審理手続
取消訴訟の審理手続については、行政事件訴訟法に定めがない事項が多く、そのような事項については、民事訴訟の例によることとされています。
訴訟の提起
取消訴訟の提起は、訴状を裁判所に提出してしなければなりません。
訴訟代理人の資格
取消訴訟においては、法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人になることができません。
訴訟の審理
取消訴訟の当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならないのが原則です。
事実・証拠の収集・提出
取消訴訟においていかなる事実を主張するか、また、主張された事実についていかなる証拠を収集するかについては、当事者に任せるべきとされています(弁論主義)。
しかし、行政事件訴訟の結果は公益に影響する場合が多く、客観的な真実を究明して審理や裁判の適正を図る必要があることから、職権証拠調べが認められています。
ただし、証拠調べの結果について、当事者の意見をきかなければなりません。
関連請求の併合
関連請求とは、取消訴訟の対象である処分・裁決と以下のような関係にある請求です。
関連請求
- 当該処分・裁決に関連する原状回復または損害賠償の請求
- 当該処分とともに1個の手続を構成する他の処分の取消しの請求
- 当該処分に係る裁決の取消しの請求
- 当該裁決に係る処分の取消しの請求
- 当該処分・裁決の取消しを求める他の請求
- その他当該処分・裁決の取消しの請求と関連する請求
審理の重複を回避し、矛盾した裁判を避けるため、以下のような関連請求の併合が認められています。
請求の客観的併合
請求の客観的併合とは、当初から1つの訴えで数個の請求をすることです。
16条は、取消訴訟に関連請求に係る訴訟を併合して提起することを認めています。
請求の追加的併合
請求の追加的併合とは、1つの訴えが係属している間に他の請求を追加することです。
18条は第三者による請求の追加的併合を、19条は原告による請求の追加的併合を認めています。
共同訴訟
共同訴訟とは、1つの訴えで複数の原告が数個の請求をし、または、複数の被告に対して数個の請求をする場合のことです。
訴えの変更
裁判所は、取消訴訟の目的たる請求を処分・裁決に係る事務の帰属する国または公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当であると認めるときは、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、原告の申立てにより、決定をもって、訴えの変更を許すことができます。
訴訟資料をそのまま利用できるなど、原告の負担を軽減することになるため、訴えの変更が認められています。
訴訟参加
訴訟参加とは、係属中の訴訟に第三者が参加することです。
訴訟の結果により権利を害される第三者に権利を防御する機会を与えるため、裁判所は、当事者・第三者の申立てによりまたは職権で、このような第三者を訴訟に参加させることができます。
訴訟資料を豊富にし客観的に公正な事件の解決を図ることができるようにするため、裁判所は、当事者・行政庁の申立てによりまたは職権で、処分・裁決をした行政庁以外の行政庁を訴訟に参加させることができます。
釈明処分の督促
民事訴訟においては、訴訟の当事者が所持している物についてのみ釈明処分をすることが認められています。
しかし、行政事件訴訟においては、行政事件訴訟の審理を充実・促進させるという観点から、裁判所が必要と認めるときは、訴訟の当事者が所持しているものでなくても、被告である国や公共団体に所属する行政庁に対して、その保有する処分の理由を明らかにする資料を提出させることができます(釈明処分の督促)。
取消訴訟の判決
取消訴訟は、原告が訴えを取り下げた場合などを除き、裁判所がなした判決によって終了することになります。
判決の種類
取消訴訟の判決には、
- 却下判決
- 認容判決
- 棄却判決
の3種類があります。
なお、認容判決と棄却判決を併せて本案判決といいます。
判決の種類
却下判決 | 本案判決 | |
取消訴訟の訴訟要件が欠けており不適切であるとして、審理を拒絶する判決 | 審理の結果を表明する判決 | |
認容判決 | 棄却判決 | |
取消しを求める請求に理由があるとして、処分・裁決を取り消す判決 | 取消しを求める請求に理由がないとして、請求を退ける判決 |
処分・裁決が違法である場合、認容判決がなされるのが通常ですが、処分を取り消すことにより公の利益に著しい障害が生じるときは、棄却判決をすることもできます(事情判決)。
裁判所は、事情判決をする場合には、判決の主文において、処分・裁決が違法であることを宣言しなければなりません。
判決の効力
取消訴訟の認容判決が確定すると、
- 既判力
- 形成力
- 拘束力
の3つの効力が生じます。
既判力
既判力とは、訴訟において判決が確定した場合に、当事者及び裁判所が、訴訟の対象となった事項について、異なる主張・判断をすることができなくなる効力です。
形成力
形成力とは、処分・裁決の効力を処分・裁決がなされた当時にさかのぼって消滅させる効力です。
取消判決の形成力は、当事者のみならず、第三者に対しても及びます(第三者効力)。
拘束力
拘束力とは、行政庁に対し、処分・裁決を違法とした判断を尊重し、取消判決の趣旨に従って行動することを義務付ける効力です。
拘束力の内容
消極的効力 | 行政庁は、取り消された行政処分と同一の事情の下で 同一の理由に基づいて同一の内容の処分をすることができなくなる |
積極的効力 | 申請拒否処分または審査請求の却下・棄却裁決の取消判決が確定した場合、 その処分・裁決をした行政庁は、判決の趣旨に従って、 改めて申請に対する処分または審査請求に対する裁決をしなければならない |
違法判断の基準時
違法判断の基準時とは、処分の違法性が審理される場合、その違法とはどの時点を基準にして判断すべきかという問題のことです。
最高裁判所の判例は、処分時における法令や事実状態を基準にして判断すべきであるとしています。
なぜなら、取消訴訟は、すでになされた処分の違法を事後的に争うものである以上、裁判所は処分の違法性の事後審査に留まるべきだからです。
それではまた次回。
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