裁判所は、司法権を担当するわ。
条文だけでなく、判例も重要だモン!
本ブログでは、行政書士の試験科目「統治・裁判所」について要約しています。
行政書士を目指している方に向けて、下記の書籍を参考にして作成しました。
ほんのわずかでも、行政書士試験を受験される方の手助けになれたら幸いです。
- 九州を拠点に自動車販売店を経営
- 2015年より金融系ブログ作成
- ほったらかし投資が座右の銘
司法権
司法権の範囲
司法権とは、法を適用し宣言することで具体的な争訟を解決する権限です。
最高裁判所の判例は、「具体的な争訟」とは「法律上の争訟」と同じ意味であり、法令を適用することで解決すべき権利義務に関する当事者間の紛争としています。
したがって、法令を適用しても解決できないものや、具体的事件を離れて抽象的に法律の解釈を争うようなものは、「法律上の争訟」に当たらず司法権を行使できないので、裁判の対象になりません。
<事案>
創価学会の元会員が、正本堂建立資金のため寄付をしたところ、正本堂に安置すべき「板まんだら」は偽物であったことから、寄付行為には要素の錯誤があったとして寄付金の返還を求めた。
<結論>
訴え却下
<判旨>
訴訟が具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっている場合でも、信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断が、訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なものと認められ、訴訟の争点及び当事者の主張立証の核心となっているときには、その訴訟は実質において法令の適用によっては終局的な解決の不可能なものであって、法律上の争訟には当たらない。
司法権の限界
裁判所は、「法律上の争訟」に当たる事件であれば、司法権を行使できるのが原則です。
しかし、衆参両議院が行う議員の資格争訟の裁判(55条)や、弾劾裁判所が行う裁判官の弾劾裁判(64条)のように、憲法によって裁判所以外の機関が司法権を行使することが認められている場合があります。
自律権に属する行為
自立権に属する行為とは、国会又は各議院の内部事項に関する行為です。
国会や各議院の自主的な判断を尊重すべきであることから、裁判所は司法権を行使できないとされています。
<事案>
警察法の審理に当たり野党議員が強固に反対し、議場が混乱したまま可決とされたため、その議決は無効ではないかが争われた。
<結論>
訴え却下
<判旨>
裁判所は、両院の自主性を尊重すべく、警察法制定の議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきではない。
統治行為
統治行為とは、直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為です。
統治行為は、政府・国会などの政治部門の判断に委ねるべきで、裁判所は司法権を行使できないとされています。
<事案>
衆議院の解散が憲法7条のみでなされたこと、解散の決定過程において全閣僚の一致による助言と承認の2つの閣議がなかったことが、違憲であるかが争われた。
<結論>
訴え却下
<判旨>
- 統治行為の司法審査
直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、裁判所の審査権の外にある。 - 衆議院の解散の司法審査
衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であって、このような行為について、その法律上の有効無効を審査することは、司法裁判所の権限の外にある。
団体の内部事項に関する行為
大学などの自主的な団体の内部紛争については、内部規律の問題にとどまる限りその自治的措置に任せるべきであり、裁判所の司法審査が及ばないとされています(部分社会の法理)。
<事案>
富山大学における単位不認定処分の効力が争われた。
<結論>
訴え却下
<判旨>
- 部分社会の法理
大学は、国公立か私立を問わず、自律的な法規範を有する特殊な部分社会を形成しているから、大学における法律上の紛争は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的・自律的な解決に委ねられる。 - 単位授与行為
単位授与行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内の問題として大学の自主的・自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審査の対象にはならないものと解するのが、相当である。
<事案>
政党が党員に対してなした除名処分の効力が争われた。
<結論>
除名処分は有効
<判旨>
正当は、国民がその政治的意思を国政に反映させ実現させるための最も有効な媒体であって、かつ、議会制民主主義を支えるきわめて重要な存在であるから、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならず、政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない。政党が党員に対してした処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、当該処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り当該規範に照らし、当該規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理もこの点に限られる。
<事案>
地方議会の議員に対する出席停止の懲罰の取消しを求める訴えの適法性が争われた。
<結論>
適法
<判旨>
出席停止の懲罰は、公選の議員に対し、議会がその権限において科する処分であり、これが科されると、当該議員はその期間、会議及び委員会への出席が停止され、議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず、住民の信託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと、これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして、その適否が専ら議会の自主的、自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。そうすると、出席停止の懲罰は、議会の自律的な権能に基づいてされたものとして、議会に一定の裁量が認められるべきであるものの、裁判所は、常にその適否を判断することができるというべきである。したがって、普通地方公共団体の議会の議員意対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となるというべきである。
司法権の帰属
特別裁判所の禁止
特別裁判所とは、特別の人間または事件について裁判するために、通常裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関です。
法解釈の統一を図る必要があるので、特別裁判所の設置は禁止されています。
行政機関による終審裁判の禁止
行政機関は、終審として裁判を行えませんが、前審としてならば、行政機関による裁判も認められています。
裁判所の組織と権能
最高裁判所
構成
最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官で構成されます。
最高裁判所長官は、内閣の指名に基づき、天皇が任命します。
その他の裁判官は、内閣が任命します。
国民審査
裁判官の選任に対して民主的なコントロールを及ぼすために、最高裁判所裁判官の国民審査の制度が設けられています。
一度審査された裁判官は以後、10年間審査がなく、10年を経過した次の衆議院選挙で再度、審査されることになります。
投票者の多数が罷免を可とするときは、裁判官は罷免されます。
定年
最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢(70歳)に達したら退官します。
下級裁判所
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣が任命します。
任期は10年(再任あり)で、法律の定める年齢(簡易70歳でそれ以外は65歳)に達したら退官します。
指名 | 任命 | 認証 | |
最高裁長官 | 内閣 | 天皇 | ー |
最高裁判事 | ー | 内閣 | 天皇 |
高等裁長官 | 最高裁の指名名簿 | 内閣 | 天皇 |
下級裁判事 | 最高裁の指名名簿 | 内閣 | ー |
司法権の独立
裁判が公正に行われ人権の保障が確保されるためには、裁判官が外部からの圧力や干渉を受けずに、公正な立場で職務を行うことが必要とされます。
そこで憲法は、司法権の独立を要請しています。
司法権の独立
規則制定権
最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有します。
裁判所の自主性を確保し、司法内部における最高裁判所の統制権と監督権を強化すること、実務に通じた裁判所の専門的判断を尊重することから、最高裁判所に規則制定権が認められています。
行政機関による裁判官の懲戒処分の禁止
裁判官に対する行政権の不当な干渉を防止し、裁判所の自主的な処理に委ねるため、行政機関による裁判官の懲戒処分は禁止されています。
裁判官の職権の独立(身分保障)
罷免事由の限定
78条以外による裁判官の罷免を認めず、裁判官が安心して裁判に専念できるようにすることによって、職権の独立を確保しています。
報酬の保障
裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受けとることができ、報酬は在任中減額することができません。
違憲審査権
違憲審査権とは何か
違憲審査権とは、法律・命令・規則・処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限です。
最高裁判所は、違憲審査権を有する終審裁判所であるとされています。
違憲審査の方法
違憲審査の方法には、「付随的違憲審査制」「抽象的違憲審査制」の2種類があり、日本では付随的違憲審査制が採用されています。
通常の裁判所が、具体的な争訟を裁判する際に、その争訟において問題となった点についてのみ違憲審査を行う方法
特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な争訟と関係なく、抽象的に違憲審査を行う方法
<事案>
日本社会党の代表者が、自衛隊の前身である警察予備隊が違憲無効であることの確認を求めて出訴した。
<結論>
訴え却下
<判旨>
日本の現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がこのような具体的事件を離れた抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何らの根拠も存在しない。
対象
条約
条約は81条の列挙事項に挙げられていませんが、最高裁判所の判例は、条約を違憲審査の対象とする余地を認めています。
<事案>
国が米軍飛行場拡張のため砂川町の測量を開始し、これに反対した地元住民らが敷地内に立ち入った行為が、旧日米安保条約に基づく刑事特別法違反に問われたため、日米安保条約の合憲性が争われた。
<結論>
合憲・違憲の判断をしなかった。
<判旨>
日米安保条約は、主権国としての我が国の存立の基礎にきわめて重大な関心を持つ高度の政治性を有するものというべきであって、その内容が違憲であるか否かの法的判断は、その条約を締結した内閣及びこれを承認した国会の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくない。したがって、純司法機能をその使命とする司法裁判所の判断には原則としてなじまない性質のものであり、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査の範囲外のものである。
立法不作為
立法不作為の違憲審査については、以下の3つの判例があります。
<事案>
重度障害者の在宅投票制度を廃止したまま、その復活を怠った立法不作為の違憲を理由として、国家賠償請求がなされた。
<結論>
合憲ー国家賠償請求は認められない。
<判旨>
国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けない。
<事案>
選挙権を行使するには選挙人名簿に登録されていなければならないところ、外国に長期滞在するものは登録されず選挙権を行使し得なかったことから、1998年以公職選挙法の改正を行い、新たに在外選挙人名簿を調整しこれに登録された者には選挙権の行使を認めることにした。しかし、対象となる選挙を当分の間は両議院の比例代表選挙に限ることとしたため、衆議院小選挙区選出議員の選挙および参議院選挙区選出議員の選挙においては選挙権を行使できない状態が続いた。そこで在外国民が、1996年に行われた衆議院議員選挙において投票し得なかったことにつき、立法不作為の違憲を理由として、国家賠償請求をなした。
<結論>
違憲ー国家賠償請求は認められる
<判旨>
- 選挙権の制限の合憲性
国民の選挙権の制限は、そのような制限なしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが著しく困難であると認められる場合でない限り、憲法上許されず、これは立法の不作為による場合であっても同様である。 - 立法不作為の違法性
立法の内容または立法不作為が、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために、所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為または立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受ける。 - あてはめ
在外国民も、国政選挙において投票する機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり、この権利行使の機会を確保するためには、在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず、10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから、このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり、このような場合においては、過失の存在を否定することはできない。したがって、本件においては、上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを容認すべきである。
<事案>
在外国民に国民審査に係る審査権の行使が認められなかったことにつき、立法不作為の違憲を理由として、国家賠償請求をなした。
<結論>
違憲ー国家賠償請求は認められる。
<判旨>
- 国民審査権の制限の合憲性
審査権が国民主権の原理に基づき、憲法に明記された主権者の権能の一内容である点において選挙権と同様の性質を有することに加え、憲法が衆議院議員総選挙の際に国民審査を行うこととしていることに照らせば、憲法は、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。憲法の以上の趣旨に鑑みれば、国民の審査権またはその行使を制限することは原則として許されず、審査権またはその行使を制限するためには、そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきであり、これは立法の不作為による場合であっても同様である。 - 立法不作為の違法性
法律の規定が、憲法上保障されまたは保護されている権利利益を、合理的な理由なく制約するものとして、憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである。そして、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するための立法措置をとることが、必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠るときは、上記の例外的な場合に当たるものと解するのが相当である。 - あてはめ
在外審査制度の創設に当たり検討すべき課題があったものの、その課題は運用上の技術的な困難にとどまり、これを解決することが事実上不可能ないし著しく困難であったとまでは考え難いことに加え、国会において在外国民の審査権に関する憲法上の問題を検討する契機もあったといえるにもかかわらず、国会は、約10年の長きにわたって、在外審査制度の創設について所要の立法措置を何らとらなかったというのであるから、在外審査制度を創設する立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠ったものといえる。そうすると、本件立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものというべきである。
裁判
立法行為や行政行為のみならず、司法行為も最高裁判所の違憲審査権に服します。
裁判の公開
裁判の対審および判決は、自由に傍聴できる公開法定で行うのが原則です。
裁判の公正を確保するためには、対審や判決のような裁判の重要部分が公開される必要があるからです。
そして、公開が要求される裁判とは、当事者の意思にかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような純然たる訴訟事件の裁判意限られます。
なお、裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は公開しないで行えます。
ただし、「政治犯罪」「出版に関する犯罪」「憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件」の対審は、常に公開しなければいけません。
裁判の公開
それではまた次回。
コメント