人権総論では、4つ学習するわ!
「人権の分類」「人権の享有主体」「人権の限界」「人権の私人間効力」
本ブログでは、行政書士の試験科目「人権・人権総論」について要約しています。
行政書士を目指している方に向けて、下記の書籍を参考にして作成しました。
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ほんのわずかでも、行政書士試験を受験される方の手助けになれたら幸いです。
人権の分類
「人権」とは、人間が生まれながらにして当然にもっている権利です。
人権は、「自由権」「社会権」「参政権」「受益権」の4つに分類できます。
人権の分類
自由権 | 国家が国民に対して、強制的に介入することを排除して、個人の自由な活動を保障する権利 |
社会権 | 社会的弱者が、人間に値する生活を送れるように、国家に一定の配慮を求める権利 |
参政権 | 国民が、自己の属する国の政治に参加する権利 |
受益権 | 人権の保障を確実なものとするため、国に対して一定の行為を求める権利 |
- 自由権→国家からの自由
- 社会権→国家による自由
- 参政権→国家への自由
自由権はさらに、「精神的自由権」「経済的自由権」「人身の自由」の3つにわけられます。
自由権の分類
精神的自由 | 学問・表現などの精神的活動を行う自由 |
経済的自由 | 職業選択などの経済的活動を行う自由 |
人身の自由 | 国家から不当に身体を拘束されない自由 |
人権の享有主体
人権の享有主体とは、人権が保障されている人のことです。
法人の人権
自然人と同じように、法人にも人権が保障されます。
最高裁判所の判例は、法人についても、権利の性質上可能な限り人権が保障されるとしています(八幡製鉄事件)。
法人の人権
法人に保障される人権 | 法人に保障されない人権 |
・精神的自由権 ・経済的自由権 ・受益権 | ・人身の自由 ・社会権 ・参政権 |
<事案>
八幡製鉄の代表取締役が特定の政党に対して政治献金をしたため、同社の株主がその行為の責任を追及する訴訟を提起し、この政治献金が会社の目的の範囲外の行為であり無効ではないかと争われた。
<結論>
有効である。
<判旨>
- 法人の人権
憲法第3章に定める国民の権利及び義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用される。 - 会社の政治的行為の自由
会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持・推進し又は反対するなどの政治的行為をなす自由を有する。
<事案>
強制加入団体である税理士会が、会の決議に基づいて、税理士法を業界に有利な方向に改正するための工作資金として会員から特別会費を徴収し、それを特定の政治団体に寄付した行為が、税理士会の目的の範囲外の行為であり無効ではないかが争われた。
<結論>
無効である。
<判旨>
税理士法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々な思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されているから、税理士会が決定した意思に基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。したがって、税理士会が政党など政治資金規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとえ税理士にかかる法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、税理士会の目的の範囲外の行為である。
外国人の人権
最高裁判所の判例は、外国人についても、権利の性質上日本国民のみを対象としている場合を除いて、人権が保障されるとしています。
権利の性質上日本人のみを対象としている場合
参政権は自己の属する国の政治に参加する権利→日本人のみを対象→外国人には参政権が保証されない
<事案>
アメリカ人のマクリーン氏が日本に入国し、1年後に在留期間更新の申請をしたところ、法務大臣は、マクリーン氏が在留中に政治活動を行ったことを理由に更新を拒否した。そこで、この更新拒否処分が政治活動の自由を侵害して違法ではないかが争われた。
<結論>
適法
<判旨>
- 外国人の人権
憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人にも等しく及ぶ。 - 外国人の政治活動の自由
政治活動の自由は、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないものを除き、その保証が及ぶ。 - 外国人の在留の権利
憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、憲法上、外国人は、我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん、在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものでもない。
外国人に保障される人権 | 外国人に保障されない人権 |
・自由権 ・受益権 | ・入国・再入国の自由 ・社会権 ・参政権 |
入国の自由
入国の自由は、外国人には保障されません。
国際法上、国家が自己に危害を及ぼすおそれのある外国人の入国を拒否することは、国家の権限に任されているからです。
<事案>
日本に入国して定住しておるアメリカ人の森川キャサリーン氏が、韓国へ旅行するため再入国許可の申請をしたところ、不許可とされた。そこで、この不許可処分が再入国の自由を侵害して違法ではないかが争われた。
<結論>
適法
<判旨>
我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものではなく、再入国の自由も保障されていない。
社会権
社会権は、各人の所属する国が保障すべき権利なので、外国人には保障されません。
<事案>
外国人が知事に対して障害福祉年金の請求を行ったところ、この請求が却下された。そこで、当該却下処分が憲法14条、25条に違反しないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、その政治的判断によりこれを決定することができるのであり、その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許される。
参政権
参政権は、国民が自己の属する国の政治に参加する権利なので、外国人には保障されません。
<事案>
外国人が地方公共団体の選挙人名簿に登録されていないことを不服として、選挙管理委員会に対して異議の申し出をした。そこで、外国人にも地方選挙権が保障されるかが争われた。
<結論>
外国人には地方選挙権が保証されない。
<判旨>
- 憲法93条2項の「住民」の意味
憲法93条2項で地方公共団体の長や議会の委員などを選挙することとされた「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味する。 - 外国人の地方選挙権の許容
我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、法律をもって、地方公共団体の長・議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではない。しかしながら、このような措置を講ずるか否かは専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。
<事案>
外国人である東京都の職員が管理職選考試験を受験しようとしたところ、日本国籍を有していないことを理由に拒否された。そこで、この拒否処分が法の下の平等を定めた憲法14条1項に反するのではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
地方公共団体が、日本国民である職員に限って管理職に承認することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基いて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、このような措置は、憲法14条1項に違反するものではない。
国の統治のあり方については、国民が最終的な責任を負うべきである以上、外国人が公権力の公使を行う地方公務員に就任することは、我が国の法体系の想定するところではない。
人権の限界
公共の福祉による人権制限
原則、国家は人権を制限できません。
しかし、ある人の人権を保障することが、他の人の人権を侵害する場合があります。
そこで憲法は、人権を「公共の福祉に反しない限り」認めることにして、ある人の行為が他の人の人権を侵害する場合には、その行為は制限されるとしています(公共の福祉による人権制限)。
特別な法律関係に基く人権制限
公務員・在監者のように、国家権力と特別な関係にある人には、特別の人権制限が許されます。
公務員の人権
公務員は、政治的に中立であることが要求され、政治的目的をもって政治的行為を行うことが禁止されています。
<事案>
郵便局に勤務する現業国家公務員が、特定の政党を支持する目的でポスターの提示や配布をした行為が、国家公務員法102条1項及び人事院規則14-7に違反するとして起訴された。そこで、国家公務員法及び人事院規則の合憲性が争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
- 政治的行為の保障
国家公務員法102条1項及び人事院規則によって、公務員に禁止されている政治的行為も、多かれ少なかれ政治的意見の表明を内包する行為であるから、もしそのような行為が国民一般に対して禁止されているのであれば、憲法違反の問題が生ずることはいうまでもない。 - 公務員の政治的行為の自由
公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである。 - 公務員の政治的行為の禁止の合憲性判定基準
公務員の政治的行為を禁止することができるかの判断に当たっては、禁止の目的、禁止の目的と禁止される政治的 行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討することが必要である。
<事例>
当時の社会保険庁に勤務していた国家公務員が、特定の政党を支持する目的で政党機関誌を配布した行為が、国家公務員法110条1項19号・102条1項、人事院規則14-7に違反するとして起訴された。そこで、国家公務員法及び人事院規則の罰則規制の合憲性が争われた。
<結論>
国家公務員法及び人事院規制の罰則規定は合憲だが、本件配布行為は当該罰則規定の構成要件に該当しない。
<判旨>
- 国家公務員法102条1項の「政治的行為」の意味。
公務員の職務の遂行の政治的中立を損なうおそれが観念的なものにとどまらず、現実的に起こりうるものとして実質的に認められるものを指す。 - 本件配布行為の構成要件該当性
本件配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務とまったく無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもないから、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえず、本件配布行為は当該罰則規定の構成要件に該当しない。
在監者の人権
在監者については、逃亡や証拠隠滅などを防止するために、刑事施設に強制的に収用する身体の拘束が認められています。
<事案>
在監者に対して喫煙を防止していた旧監獄法施行規則が憲法13条に違反しないかが争われた
<結論>
合憲
<判旨>
- 喫煙の自由の保障
喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一つに含まれるとしても、あらゆる時・所において保障されなければならないものではない。 - 在監者の喫煙の防止の合憲性
在監者の喫煙を禁止することは、必要かつ合理的な規制である。
<事案>
在監者が新聞を定期購読していたところ、拘置所所長がよど号ハイジャック事件に関する新聞記事を全面的に抹消した。そこで、その抹消部分が在監者の閲読の自由を侵害して違憲ではないかが争われた。
<結論>
合憲
<判旨>
- 閲読の自由の保障
新聞紙・図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨・目的から、その派生原理として当然に導かれる。 - 在監者の閲読の自由に対する制限
在監者の閲読の自由に対する制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序が害される一般的・抽象的なおそれがあるだけでは足りず、その閲読を許すことにより、監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要である。
人権の私人間効力
人権の私人間効力
近年、大企業のような私的団体からも、国民の人権が侵害されるようになってきました。
憲法の人権規定が、私人(個人)と私人(法人)の間でも適用されるかといった問題を、「人権の私人間効力」の問題といいます。
間接適用説
人権の私人間効力についての考え方は、2つあります。
- 【直接適用説】憲法の人権規定が私人間でも直接適用される
- 【間接適用説】憲法の人権規定は私法を通して間接的に適用される
直接適用説は、私人間の関係に憲法が介入することになり、「私的自治の原則」に反してしまいます。
そこで最高裁判所の判例は、憲法の人権規定は、私法を通して間接的に適用されるとしています(間接適用説)。
<事案>
大学卒業後、三菱樹脂に採用された者が、在学中の学生運動歴について入社試験の際に虚偽の申告をしたという理由で本採用を拒否された。そこで、特定の思想を有することを理由に本採用を拒否することが憲法に違反しないかが争われた。
<結論>
違反しない(間接適用説)。
<判旨>
- 人権規定の私人間への適用
憲法の自由権的基本権の保障規定は、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。私人間の関係においても、相互の社会的力関係相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるを得ない場合があるが、このような場合でも、憲法の基本権保障規定の適用ないし類推適用を認めるべきではない。 - 思想・信条の調査の可否
企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも違法ではない。 - 思想・信条を理由とする雇用の拒否
企業者が特定の思想・信条を有する者をそれを理由として雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法としたり、直ちに民法上の不法行為とすることはできない。
<事案>
無届で法案反対の署名活動を行ったり、許可を得ないで学外の政治団体に加入したりした行為が、学則の具体的な細則である生活要録の規定に反するとして、学生が退学処分を受けた。そこで、この学生が、退学処分が憲法19条に違反することを理由に学生たる地位の確認を求めて争った。
<結論>
退学処分は19条に違反しない(間接適用説)。
<判旨>
- 人権既定の私人間への適用
憲法19条、21条、23条当のいわゆる自由権的基本権の保障規定は、国又は公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障することを目的とした規定であって、専ら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものではない。 - 退学処分の合意性
私立学校は、建学の精神に基づく独自の教育方針を立て、学則を制定することができ、学生の政治活動を理由に退学処分を行うことは、懲戒権者に認められた裁量権の範囲内にある。
<事案>
企業における定年年齢を男子60歳、女子55歳とした男女別定年制が、法の下の平等に反しないかが争われた。
<結論>
法の下の平等に反する(間接適用説)
<判旨>
就業規則中、女子の定年年齢を男子よりも低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法90条の規定により無効である。
それではまた次回。
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